「あ、お金ない。」無銭飲食したら詐欺罪?食い逃げは立派な犯罪だった

無銭飲食(いわゆる「食い逃げ」)が犯罪だというのは、だれでも直観的に理解できることだと思います。しかし、最初から食い逃げをするつもりで食事をするような場合は論外として、たまたま財布を忘れたのにそれに気づかず食事をしてしまった場合や、会計時にクレジットカードが使えなかった場合など、期せずして食事の代金の支払いができない場合まで無銭飲食として犯罪に当たるというのは、何となく納得がいかないのではないでしょうか。

また、中には、店員の目を盗んで食い逃げをしたような場合には、犯罪にはならないと聞いたことがある方もおられるかも知れません。

今回は、無銭飲食がどのような犯罪にあたるのか、また、実際に食事の代金が支払えなかった場合に備えてどのような対応をするのが適切なのかについて解説していきます。

1,無銭飲食は詐欺罪に問われるのか?

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(1)詐欺罪に問われ得る場合

無銭飲食というのは、文字どおり、飲食代金を支払うつもりがないのに食堂などで飲食することをいい、このような行為は詐欺罪(刑法(明治40年法律45号)246条)に問われ得るとされています。法文の解釈では、詐欺罪が成立するためには、人をだまして財産的な価値のある物や利益を得たりすることが要件とされているので、飲食代金を支払うつもりがないのに料理を注文すればその時点で詐欺罪にあたる行為への着手があったとされ、注文した料理が提供されれば、料理に手を付けたか否かにかかわらず既遂に達したことになります (最決昭和30年7月7日刑集9巻9号1856頁など)。なぜなら、食堂で料理を注文する場合には、あとで代金を支払うという意思もそこに含まれているのが通常で、代金を支払う意思がないのに注文をするということは、食堂の店員をだまして料理を提供させることになるからです。これを「推断的欺罔(ぎもう)」、あるいは「挙動による詐欺」といい、あとで述べるように、「店員の目を盗んで食い逃げをしても詐欺罪は成立しない」ことを知りながら料理を注文した場合にも詐欺罪が成立する理論的な根拠となっています。

なお、注文の際にはきちんと代金を支払うつもりだったのに、会計の際に、財布の中にあまりお金が入っていないことに気づき、注文した料理よりも安い料理を食べたなどと嘘をついて店員をだました場合なども、店員をだまして安い値段の飲食代金しか支払わないという利益を得ているため、詐欺罪が成立することは言うまでもありません。
詐欺罪には、未遂を処罰する規定(刑法250条)も置かれており、法定刑は10年以下の懲役となっています(刑法246条)。

(2)店員が注文内容を間違えたときなども要注意

注文した料理よりも高級な料理が出されたり、会計時に、注文した料理の代金よりも安い金額を請求されたりした経験はありませんか。このように、店員が注文内容を間違えていることに気づいたならば、店員に正しい注文内容を確認しなければならない道義的な義務が発生する場合があり、その義務を果たさずに安い金額を言われるがままに支払ったときには、詐欺罪が成立する恐れがあるという指摘もあります。

例えば、自分の銀行口座に誤って振り込まれたお金があることに気づきながら、黙ってこのお金を引き出した行為について詐欺罪の成立が認められた事案があります(最決平成15年3月12日刑集57巻3号322頁)。この裁判では、口座を保有する者には誤って振り込みがあった事実を銀行に知らせる義務があると最高裁判所が述べています。店員が注文内容を間違えた場合についてこの判例が直接適用されるわけではないにせよ、このような義務に反して黙って請求されたとおりの代金を支払えば詐欺罪が成立する可能性が全くないとは言い切れない以上、注意が必要かと思われます。

(3)うっかりミスの場合などには犯罪が成立しないことも…

では、うっかり財布を忘れたり、クレジットカードが使えないのにカード払いができるものと勘違いして高額な料理を注文したりしたときも、詐欺罪が成立するのでしょうか。

先ほども触れたように、無銭飲食に詐欺罪が成立するためには、料理を注文する際や会計の時に店員を意図的にだまして利益を得ることが要件となっています。例えば、先述した推断的欺罔の例のように代金を支払う気がないのに料理を注文したり、店員が注文内容を間違えていることに気づいたのに敢えてそれを黙っていたりするのは、店員がだまされている状況を意図的に作り出したり利用したりすることとなります。

これに対して、うっかり財布を忘れたことに気づかないままだったり、夜はクレジットカードが使えるランチ営業の居酒屋で昼食時のカード払いができないことを知らずに料理を注文したりしたような場合は、そもそも店員をだます意図がないので、詐欺罪が成立することはありません。

2,やばい警察に通報された!

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(1)無銭飲食をすると必ず逮捕されるのか?

無銭飲食により詐欺罪が成立するかどうかは、店員をだましたことと、それによって注文した飲食物が提供されたことの両方の事実が外形的に存在するか否かによって判断されます。但し、その判断は、究極的には刑事訴追されたときに裁判の過程で明らかにされていくものですから、財布を持たずに料理を注文したという事実のみによって逮捕され有罪になるという心配は、とりあえずはしなくてもよいと思います。

もちろん、常習的に無銭飲食を繰り返した前歴があったり、飲食代金をアメリカドルなどの外貨で支払うつもりだなどとおよそ合理性に欠ける支払いの意思を強弁するような場合には、ことの悪質性が考慮されて、逮捕はもちろん起訴されることもあるかも知れません。

しかし、現在の社会生活においては、飲食店に入ってわざと無銭飲食をしようとする人はごく稀であり、しかも、多くの場合は、うっかり財布を忘れたり、気づいたら財布をどこかに落としたりするなどして、支払うつもりはあってもその手段がないという場合がほとんどですから、期せずして無銭飲食になってしまい警察に通報されそうになっても、慌てず、店側にきちんと事情を説明して謝罪し、速やかに代金を支払う旨を伝え理解してもらえるよう努力することが、トラブルを悪化させないためにも大変重要です。
なお、店側の態度が極めて強硬で、有効な支払いを執拗に要求するような場合は、逆に、店側にも強要や脅迫などの犯罪にあたる事実が認められる場合があり、むしろ警察に通報してもらったほうが穏便な円滑な解決につながる場合もありますので、留意しておくとよいでしょう。

(2)慌てて事態のさらなる悪化を招くことも…

ところが、本来なら、詐欺罪はおろか何らの犯罪も成立しなかったはずであったにもかかわらず、警察や職場、学校に通報すると言われ慌てて店員を怒鳴りつけるなどして飲食代金を踏み倒したりすれば、恐喝罪(刑法249条)が成立(最決昭和43年12月11日刑集22巻13号1469号)し、10年以下の懲役刑が科されることがあります。また、店員を殴って逃げたりすれば強盗罪(刑法236条2項)により5年以上の有期懲役に処せられることがあり、万が一殴られた店員が怪我をすれば強盗致死傷罪として無期懲役を含む6年以上の懲役刑、殴られた店員の打ちどころが悪く不幸にして死んじゃったりすると死刑または無期懲役刑に処せられる可能性もあります(刑法240条)。強盗罪には罰金刑の定めがなく、逮捕、起訴されて有罪となれば、その後の人生に取り返しのつかない深刻な痛手を残しかねません。

うっかりミスで、財布を持たずに料理を注文したのであれば詐欺罪に問われることもなく、店員にいやな顔をされて嫌味を言われるだけで済んだものを、慌てて粗暴な行為に及んだ結果、厳しい刑事制裁を招くようなことにならないよう、落ち着いて誠実に対応するよう心がけましょう。

3,無銭飲食でも法律による処罰をうけない場合がある!

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ところで、もともと飲食代金を支払うつもりであったのに、会計の際に店員の姿が見えないことを良いことに、文字どおり「食い逃げ」をしてしまったときは、どのような処罰が待っているのでしょうか。

結論から言うと、このような行為を処罰する具体的なほう法律の定めはありません。繰り返しになってしまいますが、詐欺罪が成立するためには、店員を「だます」行為が必要となっているのですが、店員の目を盗んで食堂から逃げ出す場合には、この「だます」という行為が欠落しているからです。

もちろん、当初から店員の目を盗んで食い逃げをしようとする意図があれば、飲食代金を支払うつもりがないまま食事を注文したことになるので、注文の時点で店員をだます意図が認められ、詐欺罪が成立することは言うまでもありません。

両者の違いは、最初から無銭飲食をするつもりだったのか、代金を支払う段階に至って食い逃げすることに決めたのかという点にあります。食い逃げの決心をどの時点で固めたかによって、詐欺罪が成立するかしないかが区別されるというのは、何となく不合理な感じを持たれる方も少なくないと思います。しかし、日本の刑事法は「罪刑法定主義」という原則に基づき、あるおこないが処罰されるべき犯罪行為であるとされるためには、法が定める犯罪行為が成立するための要件が整っていることを必要とするという前提に立っており、この原則によって、処罰の対象となる行為の範囲が限定され、よって、犯罪の成否が明確になるという効果が導かれているのです。この結果、どのようなおこないをすればどのような刑罰法規に触れ、どのような刑事制裁を科せられるのか予測できることとなり、その意味で、この原則は、人権保障の観点から極めて重要かつ厳格に機能しているのです。

もとより、詐欺罪とは、「だます」行為によってだまされた人が正常な思考を失うことにより間違った判断をした結果、失う必要がない利益を失うという不合理に対し制裁を加える目的を持っているので、罪刑法定主義のもとでは「だます」という行為がない限り食い逃げを詐欺罪に問うことはできないということとならざるを得ないわけです。

4、無銭飲食はやめましょう!

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だからと言って、店員の目を盗んで無銭飲食をしても大丈夫だという結論にならないのは当然です。

先にも触れたことですが、第一に、「店員の目を盗んで食い逃げをしても詐欺罪にならない」ことを知っていながら食堂で料理を注文した場合、この時点で、「あわよくば代金を支払わなくてもよい」という期待があるので推断的欺罔の認識が認められ詐欺罪の実行の着手があったこととなり、料理が提供された時点で詐欺罪の既遂が成立し得ることとなります。

次に、これまた先に触れたように、食い逃げに気づいて追っかけてきた店員から逃れるため、店員を殴って怪我をさせたりすれば、強盗罪や強盗致死傷罪など、詐欺罪とは比較にならないほどの重い犯罪結果を招くおそれもあります。

さらに、仮に店員の目を盗んで首尾よく食い逃げを遂げて刑事責任が問われない状況に至ったとしても、民事上の代金債務が免除されるわけではなく、当然に飲食代金に加えて損害賠償を請求される可能性は残されています。最近は、店内に防犯カメラを設置している食堂も少なくありませんから、映像により食い逃げをした人を特定されることもあるでしょう。また、そのような映像をインターネットで公開されることで、社会的な信用を失うなど、踏み倒した飲食代金をはるかに上回るリスクを負うことだってあるのです。

5、財布を忘れたときのために、予備の支払い手段をもっておこう!

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ところで、都市部や観光地では、クレジットカードやスマートフォン決済などのキャッシュレス決済が相当程度普及してきました。キャッシュレス決済というのは、前述した決済方法のほか、プリペイドカードやデビットカード、QRコードを使用した決済方法などをいいます。現在、日本国内におけるキャッシュレス決済の比率は2割程度にとどまっており、政府は、この比率を4割程度まで引き上げることを目標としているそうです(2018年10月1日付日本経済新聞電子版)が、まだ現金決済が主流である現状に鑑みると、財布を忘れて現金がないことに気づかないまま料理を注文してしまい、結果的に無銭飲食になってしまう恐れは多分にあるといえます。

料理を注文する前に、財布の中身を確かめるとかクレジットカードなどのキャッシュレス決済が可能かどうかを店側に尋ねるなどの習慣をつけておけば、無銭飲食を未然に防止するには有効ですが、そのほかにも、代わりとなる支払い手段を確保することにより、飲食代金を支払う意思があったこと、すなわち意図的に食い逃げをするつもりはなかったことの有力な傍証にはなり得ますし、また、一部のコンビニATMではスマートフォンで現金を引き出すサービスを提供しているところもありますので、普段からそうした代替手段を確保しておくのも効果的かもしれません。

さらに、免許証やマイナンバーカード、学生証など、顔写真入りの身分証明書を併せ持っておくと、万が一無銭飲食をしてしまい店側とトラブルになりそうになったとき、事情の説明の際にこれらを提示すれば、店側の理解を得るのに役立つと思われます。

6、小括

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無銭飲食は、それ自体が直ちに犯罪行為となるわけではありませんが、意図して無銭飲食をおこなえば詐欺罪に問われる場合があります。

しかし、うっかり財布を忘れたり、クレジットカードが使えなかったりして、注文した料理の飲食代金が支払えない場合にまで詐欺罪に問われるかといえば必ずしもそのような結果にはならず、むしろこのような場合にまで詐欺罪に問われる可能性はほとんどないと思われますので、冷静になって店側に事情を説明し、のちほど必ず飲食代金を支払うようにしましょう。なお、余談ですが、支払う旨を告げて店側から解放してもらったのに支払いをしなければ、やはり詐欺罪に問われる可能性があることは留意しておいたほうが良いと思います。

また、会計の時に財布がないことに気づき、慌てて店員に暴行を働いたりするなどして代金を免れたりすれば、恐喝罪や暴行罪に問われることもあります。また店員の目を盗んで食い逃げを図ることが犯罪にならないとしても、飲食代金の支払いの義務がなくなるわけではありません。食い逃げをしたことが発覚し、学校や職場に通報されたり防犯カメラの映像が公開されたりすれば、取り返しのつかない社会的信用の失墜を招くことにもなりかねません。

期せずして無銭飲食とならないよう、注文前に財布の中のお金の残高やキャッシュレス決済の可否などを確認するほか、日ごろから、予備の支払い手段を確保しておくことも重要と思われます。

7,まとめ

○飲食代金を支払うつもりがないのに料理を注文すれば詐欺罪に問われる。
○しかし、無銭飲食が必ずしも犯罪とはならない場合もある。
○無銭飲食が犯罪とならない場合であっても、代金の支払いが免除されるわけではない。
○お金がないことに慌てると、恐喝や強盗など、より重い罪を負う可能性もある。
○期せずして無銭飲食をしてしまったときも、落ち着いて事情を説明し、きちんと謝ろう。
○無銭飲食とならないよう、注文前に財布や支払い方法を確認しておこう。
○万が一の予備の支払い手段を確保することも効果的