「えっ、こんな契約だったの?」「どうにかこの契約取り消せないかな?」
この記事を読んでいる方は、こんなふうに思ったことがあるかもしれません。
世の中には、大学生や未成年者をターゲットとした悪質なビジネスなども数多く存在しています。
しかし、未成年者を守る法律があり、民法の第5条では「未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならず、これに反する法律行為は取り消すことができる」と定められています。
今回は、「未成年者の契約取り消し」について紹介していきます。
もくじ
1、未成年者契約取り消しとは?

未成年者の契約取り消しとは、その名前の通り未成年者が契約を行った際にその契約を無効とすることができることを指します。
なぜ、このような制度があるのかというと、未成年者は成年者に比べて社会経験などが未熟であり、適切な判断が出来ない場合があるというように考えられているためです。
実際に、民法の第5条では
(未成年者の法律行為)
第五条 成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2.前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
と定められています。
また、法定代理人のみならず、未成年者本人も契約の取り消しを行うことができます。
(取消権者)
第百二十条 行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
ただ、未成年者が結んだ契約であれば、必ずしもすべて無効にできるというわけではありません。
例えば、高校生や大学生などの未成年者がコンビニでお菓子を買った場合などには、これを法定代理人が取り消すことはできないと考えるのが一般的でしょう。
このように一部の契約に関しては取り消しが認められない場合もあります。
一方で、日常では購入しないような高額な取引の場合などには、未成年者契約の取り消しができます。
こういった具体的な要件に関しては、以下でみていきます。
2、未成年者契約取り消しとクーリングオフの違い

未成年者契約取り消しの具体的な要件をみる前に、学校などでもならったことがあるであろう、クーリングオフとの違いを紹介します。
そもそもクーリングオフとは、自分が意図していなかった契約や複雑でわかりにくい契約などで会った場合に、一定期間中であれば無条件で一方的に契約を解除できる制度です。
そのため、解除できる契約内容及び期間にはある程度の制限があると言えます。
一方、未成年者契約取り消しでは、高額であり法定代理人が同意していない契約である場合には、要件を満たしていれば契約取り消しを行うことができます。
つまり、未成年者契約取り消しの方がクーリングオフよりも取り消すことのできる範囲が広いと考えていいでしょう。
3、未成年者契約の取り消しが可能となる条件とは?

では、未成年者契約の取り消しが可能となる条件について紹介していきます。
以下の要件が全て当てはまる場合には、未成年者がおこなった契約を取り消すことが出来ます。
未成年者契約取り消しの条件
・契約時の年齢が20歳未満であること
・婚姻の経験が無いこと
・法定代理人が同意していないこと
・法定代理人から、処分を許された財産(小遣い)の範囲内でないこと
・法定代理人から許された営業に関する取引でないこと
・未成年者が詐術を用いていないこと
・法定代理人の追認がないこと(法定代理人が事後承諾をしていないこと)
・取消権が時効になっていないこと
ぱっと見た時の条件は多く見えるかもしれませんが、多くの未成年の方は取り消し条件を満たしていることがほとんどであるといえるでしょう。
中でも気になる条件を紹介してきたいと思います。
法定代理人から、処分を許された財産(小遣い)の範囲内でないこと
この要件を満たすかどうかは、未成年者の契約がお小遣いの範囲内いかどうかということになります。
こちらの内容は、民法第五条で認められている内容に反するかどうかが争点の中心となってくるでしょう。
(未成年者の法律行為)
第五条
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
気になるのは、いくら以上であれば未成年者契約を取り消すことができるのかということでしょう。
これに関しては、家庭によって大きく異なると考えられます。
日本消費者協会による『相談事例(26)未成年者の契約取り消しと配送料』では、販売回数6回、初回のみ300円で2回目以降は5,000円の契約取り消し事例が紹介されています。(お小遣いは月500円)
この事例では、販売者側から契約の有効性を主張されたが、最終的には取り消しが成立したことから、総額25,000円程度の契約でも契約は取り消しが可能ということがわかります。
このようにお小遣いを大幅に上回っている場合には、処分を許された財産の範囲外となることがわかります。
法定代理人から許された営業に関する取引でないこと
「え?どういうこと?」これを満たすかどうかの要件を見て疑問に思った方も多いのでは無いでしょうか。
(未成年者の営業の許可)
第六条 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
これは、バイトなどとして雇われて働く場合では無く、起業して会社を持ったり、会社の役員となっていたりする場合に適用される要件です。
確かに、会社同士の契約で未成年であるからといって取り消されたらひとたまりもありませんよね…。
上記から、自分が会社の役員などになっている未成年者以外は当てはまらないと言えるでしょう。
未成年者が詐術を用いていないこと
この要件に関して言えば、どこからが詐術なのかということが疑問に残るでしょう。この場合、主に未成年者が成年であると偽る場合がメインと考えていいでしょう。
これに関しては、最高裁判決例をみて見ましょう。
無能力者であることを黙秘することと民法二〇条にいう「詐術」
無能力者であることを黙秘することは、無能力者の他の言動などと相まつて、相手方を誤信させ、または誤信を強めたものと認められるときには、民法二〇条にいう「詐術」にあたるが、黙秘することのみでは右詐術にあたらない。
つまり、未成年であるにも関わらず、契約時に自分が成人であると嘘をついた場合には、この詐術にあたると考えられている一方で、黙秘をしただけでは偽ったとは言えないということになっています。
また、事業者に指示されて20歳と書かされてしまった場合や、インターネット上で「あなたは20歳以上ですか」という質問に対して「はい」と答えた場合には、取り消せる場合もあることを覚えておきましょう。
法定代理人の追認がないこと(法定代理人が事後承諾をしていないこと)
ここで一点注意すべきポイントとしては、自分が20歳になった後に自分自身で追認行為をしているかどうかということです。
20歳未満の時に契約していたとしても、20歳になってから代金の1部を支払うなどをした場合には、自分で追認したとみなされ、未成年者契約取り消しを使って契約を取り消すことが出来なくなります。
追認行為かどうかということに関しては以下の条文で規定されています。
(法定追認)
第百二十五条 前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。
一 全部又は一部の履行
二 履行の請求
三 更改
四 担保の供与
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡
六 強制執行
成人してから未成年の時の契約を破棄したいと考えている方は要注意の部分となっています。
取消権が時効になっていないこと
取消権って時効があるの?と思う方も多いでしょうが、数日、数ヶ月経過しただけでは時効とならないので安心してください。
時効となるのは以下の期間を過ぎた場合になります。
・未成年者が成年になったときから5年間
・契約から20年間
こちらの条件は、民法の第百二十六条で確認することが出来ます。
(取消権の期間の制限)
第百二十六条 取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。
つまり、「この契約を取り消したい!」と思うのが、契約から5年以内であれば取り消すことができるといえるでしょう。
4、未成年者契約取り消しをした場合に無効となるもの

上記までの説明で、どのような要件を満たせば取り消すことができるのかがわかったでしょうか?
ここからは、未成年者の契約取り消しをした場合に、契約がどこまで無効となるのかということについて紹介していきます。
未成年者契約の取り消しを行った場合、取り消された行為ははじめから無効であったものということになります。
中には、法律を読んで、利益を受けた部分に関しては返さなければいけないのではないか?と考えている方もいるのではないでしょうか?
民法を見てみましょう。
(取消しの効果)
第百二十一条 取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。
はじめから無効であったとみなされるという部分からは、支払い義務がなくなる、支払った代金の返還請求ができる、送料なども販売者側の負担になるといったことがわかります。
また、その後の但し書きの部分で述べているように、未成年者である場合には残っている部分のみの返還で良いとされています。
このように、未成年の契約取り消しでは未成年者を守るような仕組みとなっています。
5、未成年者契約を取り消す方法

では、未成年者契約取り消しをしたいと思った時には、どのようにすればいいのでしょうか?
一般的には、内容証明郵便で取消通知を送れば問題ありません。
内容証明郵便では以下のような内容を記載して送るようにしましょう。
未成年の購入者本人から送る場合
契約取消通知書
神奈川県〇〇市〇〇町○○番地
株式会社〇〇
代表取締役〇〇様私は○○年○○月○○日、貴社との間で○○○の売買契約を締結しましたが、契約時未成年者であり、親権者の同意を得ずに契約したものであるため、契約の取り消しを通知致します。
私が保管中の商品を返却致しますので、送付先をご連絡ください。
また、私が支払いました代金○○○○円は、○○銀行○○支店普通口座○○○○号、
名義人○○○○宛に至急振り込んでください。平成〇〇年○月○日
神奈川県〇〇市〇〇町〇〇番地
〇〇 〇〇(氏名) (印)
未成年の法定代理人から送る場合
契約取消通知書
神奈川県〇〇市〇〇町○○番地
株式会社〇〇
代表取締役〇〇様私の子供、〇〇〇〇(契約時〇〇歳)は、○○年○○月○○日、貴社との間で○○○の売買契約を締結しましたが、契約時未成年者であり、親権者の同意を得ずに契約したものであるため、親権者として契約の取り消しを通知致します。
保管中の商品を返却致しますので、送付先をご連絡ください。
また、当契約に際して支払いました代金○○○○円は、○○銀行○○支店普通口○○○○号、名義人○○○○宛に至急振り込んでください。平成〇〇年○月○日
神奈川県〇〇市〇〇町〇〇番地
〇〇 〇〇(氏名) (印)
6、未成年者契約の取り消しでもめてしまったら

未成年者契約の取り消しでもめてしまった場合には、日本消費者協会の消費者相談室に問い合わせてみましょう。
無料でトラブルの相談にのってもらうことが出来ます。
また、消費者相談室に相談しても解決しない場合には、弁護士などの法律の専門家に相談するのがオススメです。
7、小括

いかがだったでしょうか?
未成年者が契約を取り消す場合には、一定の要件を満たす必要があるとはいうものの、騙されたり不当な契約を結んでしまった場合には契約を取り消すことが出来ます。
もし、自分が未成年で不当な契約などを結んでしまい、取り消したいという場合には上記の流れで取り消してみてはいかがでしょうか?
8、まとめ
・未成年者の契約は、要件を満たせば取り消すことができる。
・取消要件には、「契約時の年齢が20歳未満であること」、「婚姻の経験が無いこと」、「法定代理人が同意していないこと」、「法定代理人から、処分を許された財産(小遣い)の範囲内でないこと」、「法定代理人から許された営業に関する取引でないこと」、「未成年者が詐術を用いていないこと」、「法定代理人の追認がないこと(法定代理人が事後承諾をしていないこと)」、「取消権が時効になっていないこと」がある。
・クーリングオフよりも取り消すことのできる範囲が広い
・未成年者契約を取り消した場合には、支払い義務はなくなり、支払った部分は返金されることに加え、もしものを使ったりサービスを受けてしまった場合でも、その分の支払い義務はない。
・取り消しを行う場合には、内容証明郵便で契約取消通知を送る。