「家に帰ったら塾の講義の準備をしなければ…」「伊藤さんが突然休みになったから私が出勤しなきゃいけないみたい…」「またサービス残業だ…」
最近のアルバイトでは、上記のような悩みを持っている学生も多いようです。
もしかすると、その悩みは「ブラックバイト」に当てはまっているかもしれません。
「えっ、ブラックバイト?」と思った方も、ブラックバイトの存在に関しては聞いたことがあるのでは無いでしょうか?
ただ、ブラックバイトだからといって無断で辞めてしまうことには問題があります。
今回はブラックバイトとはどういうもので、法律的にどのような問題があるのか?そして正しいブラックバイトの辞め方を紹介したいと思います。
もくじ
1、そもそおブラックバイトとは?

中京大学教授の大内裕和氏によると、ブラックバイトとは、「学生であることを尊重しないアルバイトのこと。」であり、「低賃金であるにもかかわらず,正規雇用労働者並みの義務やノルマを課されたり,学生生活に支障をきたすほどの重労働を強いられることが多い」と定義しています。(大原社会問題研究所雑誌 №681)
ブラックバイトの中には、サービス残業を始めとした時間外労働やシフトを強制されたり、急に呼び出しをされるといったことや、不法に定められたノルマ未達による罰則、アルバイト中のミスを自腹で賠償させるといったものまで多岐に渡ります。
しかしこういった境遇にある学生も、アルバイト先の店長や管理職相手では知識や権力差からやむおえずブラックバイトにはまり込んでしまい、抜け出せなくなってしまうということが多いです。
では、そもそもどういったことがいわゆるブラックバイトにあたるのかということについて以下で紹介していきます。
2、ブラックバイトの種類

一言でブラックバイトと言っても、その種類は多岐に渡ります。また、業種や職種によって異なるブラックさがあります。
給料・必要経費の未払い
給料や必要経費の部分は、アルバイトの方に関わる部分でしょう。
ブラックバイトと呼ばれる職場では、給与や必要経費が十分に支払われないことが多発しています。
ただ、給料周りでもいくつかのパターンが考えられます。今回はよくあると考えられる2パターンを紹介します。
①サービス残業・時間外労働分の給料が支払われない
②期日までに給料全額が支払われない
①は、給料日に決められた支払額は支払われているが、残業・時間外労働分について支払われていないパターンです。
この場合、給料が支払われていると認識している学生バイトの方も多いのでは無いでしょうか?しかし、残業や時間外労働もれっきとした労働です。そのため、働いた時間に対しての給料は会社に請求することが出来ます。
ちなみに、労働基準法でいう残業とは、法定労働時間である1日8時間以上、週40時間以上働いた場合に支払い義務の生じるもので、通常の給与に割増で支払われます。
この基準を満たしていない場合で、労働時間分の給料が支払われていない場合には、通常の給料を請求することになります。
②は、そもそも決められた額の給料が支払われていないパターンです。
こちらの場合には、学生であれ社会人であれおかしいと思うのが当然では無いでしょうか?
もちろん、こちらの未払いも違法となります。
未払いには、経営不振や感情的なトラブルなど様々なものが考えられますが、支払いがされていないことを相談しても給料の支払いが無い場合には、証拠を揃えた上で法的に訴える必要が出てくる場合も十分に考えられます。
ミスの損害賠償やノルマ未達の補填・買い取り
次に、ブラックバイトにおけるアルバイト中のミスによる損害賠償やノルマ未達の補填についてです。
まず、による器物損害などでは損害賠償をおうこともありますが、過失による業務上のミスによる損害賠償をアルバイトが負うことはほとんどありません。また、労働基準法では賠償を定めることを禁じています。
(賠償予定の禁止)
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
ノルマ未達時の補填に関しても、上記労働基準法第十六条で禁止されています。
そのため、ノルマ(目標)を設定すること自体は問題ないのですが、そのノルマが未達であったからといって補填や自腹買い取りさせられた場合には、違法行為となります。
また、こういったミスやノルマ未達による補填や買い取りなどによって給料からの天引きが行われた場合には、労働基準法の第二十四条にも抵触することとなります。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
シフトが自由ではない、休みがない
「自由にシフトが組めない…。」「突然呼び出される。」「休みを取らせてもらえない。」ブラックバイトの典型的なパターンと言えます。
シフトや休みに関しては、労働契約やバルバイトに対して拘束力のある「就業規則」で、アルバイトに対して特定の日に業務につくように命令できると定められているかどうかという部分が問題になります。
以下の労働基準法第十五条でも定められている通り、契約時に労働条件を明示的に知らされる必要があります。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
そもそも労働条件を知らないはどういった条件で働いているのかを確認してみましょう。また労働条件を聞いても教えてもらえないと言った場合には、ブラックバイトの可能性が高いと考えられるでしょう。
また、労働基準法の第五条では、強制労働の禁止定めているため、こちらに抵触する可能性も考えられます。
(強制労働の禁止)
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
ただ、急に代打シフトを強制されるといったことや、急病や休むことが決まっている場合にかわりに入れる人を探すことをアルバイトに強制することは法的に問題があります。
なぜなら、アルバイトといえども有給休暇を取得する権利があります。こちらに関しては労働基準法三十九条で定められています。ただ、雇用主側の都合も考え、休みとる場合にはできるだけ早めに雇用主に伝えるようにしましょう。
また、「代わりを見つけなければ休んではいけない」という指示があったとしても、代わりを探すのはバイトの責任ではありません。これは雇用主側の仕事であり、こういった指示があった場合には不当な要求であると考えて問題ありません。
最後に、シフトに1人しかいないとわかっていながら無断欠勤をした場合には損害賠償を負担する必要がある場合もあるので、アルバイト先がブラックであっても休みを取る場合にはしっかりと連絡を入れるようにしましょう。
アルバイトを辞めさせてもらえない
人で不足が深刻化する中で、アルバイトを辞めさせてもらえないというブラックバイトも存在します。
やめたいと伝えているにも関わらず、拒否されてしまうのはアルバイト側としては困った問題でしょう。
こういった場合には、正当な手続きを経ることでアルバイトを辞めることがでます。こういった場合の辞め方に関しては後ほど解説していきます。
パワハラ・セクハラをされる
パワハラ・セクハラは、悪質な場合には様々な法律によって罰則が設けられています。
そもそもパワハラ・セクハラとは何でしょうか?
パワハラとはパワーハラスメントのことで、厚生労働省によると
職場のパワーハラスメントとは、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」
と定義されています。
またセクハラとはセクシャルハラスメントのことで、セクシャル・ハラスメント防止に関する規定の中で、
(定義)
第2条 「セクシュアルハラスメントとは、職場における性的な言動に対する他の従業員の対応等により当該従業員の労働条件に関して不利益を与えること又は性的な言動により他の従業員の就業環境を害することをいう。」
と定義されています。
そして、上記に該当するようなパワハラやセクハラを受けた場合には、
・傷害罪(刑法第204条)
・暴行罪(刑法第208条)
・脅迫罪(刑法第222条)
・名誉毀損罪(刑法第230条)
・侮辱罪(刑法第231条)
刑法
などの罪に該当する場合があります。どういった、行為があったかということによって問われる罪もとこなりますが、犯罪として成立するということを覚えておきましょう。
3、ブラックバイトの対処法

ブラックバイトの種類を読んで、「もしかしたら自分もブラックバイトにハマっているかも」と思われた方や、「今までおかしいと思っていたけど、やはりブラックバイトだったか」と思った方もいらっしゃるのでは無いでしょうか。
では、今ブラックバイトにハマってしまっているとしたら、どうすれば良いのでしょうか?
もちろん辞めてしまうというのも1つの手でしょう。
しかし、悪意なくこういったことが行われているアルバイト先も十分にあると考えられます。また、未払い分の給料を支払って欲しいということもあるでしょう。
そのため、上記で紹介した様々なパターンに対しての対処方を紹介します。
この項では、主に解決を試みる方法について紹介します。
未払い給料の請求への対処法
①証拠集め
まず、未払い給与の請求に関しては、自分の労働時間に対して正当な給料が払われていないという証拠を集める必要があります。
具体的には、
給与明細、タイムカード、就業規則、勤怠に関する書類、雇用契約書、日報などの業務の記録
などを集めておきましょう。
すべて集めることが難しいといった場合には、専門家に相談するなどして必要な書類を集めるようにしましょう。
②会社と話し合う
上記の証拠を集めた上で、店長などの責任者と話し合う場を設けましょう。
③内容証明郵便で未払い分を請求する
もし、会社と話あった上でも請求が認められなかった場合には、内容証明郵便で請求を行うようにしましょう。
内容証明郵便で送ることで、郵便局が手紙の内容を証明してくれるため、会社側が受け取っていないなどと言って請求を無視することを防ぐことが出来ます。
④その他の集団で解決する
上記のような未払い請求を行っても給料の支払いが行われない場合には、労働基準監督署に労働基準法違反として申告したり、民事調停、簡易裁判所に支払督促を行ってもらったり、少額訴訟でおこすといったことも可能です。
こういった手続きを行う際には、専門家に1度相談することをオススメします。
ミスやノルマに関しての不当な扱いへの対処法
まず、ミスに対しての罰金やノルマ未達による自腹買い取りなどは労働基準法によって認められていません。こういった不当な請求をしてくるアルバイト先はブラックと言っても過言では無いでしょう。
法律に反しているからと言って納得して貰えれば良いのですが、納得してもらえない場合にはどうしたら良いのでしょうか?
①給料から天引きされている場合には
天引きされている場合には、先程も紹介したとおり労働基準法違反となります。
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
そのため、給与から差し引かれた場合には、弁償費用の返還申入書を会社に提出するなどして、給与の支払いを求めましょう。
もし、支払い請求を行っても給与が正当に支払われない場合には、労働基準監督署に違法行為の申告を行ったり、労働局に紛争解決の援助申請を行ったり、弁護士などの専門家に相談するようにしましょう。
②天引きされていなかった場合には、支払いを断る
ミスであれば、明らかに故意によるものや高額な損害を除けばバイト側に支払い義務が無い場合がほとんどですので、支払いを拒否するようにしましょう。また、ノルマ未達分の買い取りや罰金に関しても支払い拒否をするようにしましょう。
シフトが自由ではない、休めない場合の対処法
先程も紹介したように、アルバイトであっても、有給をとることは認められています。また、脅迫を始めとした行為によって強制的に働かせることも労働基準法では禁止されています。
(強制労働の禁止)
第五条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。
では、ブラックなバイト先が強制的に出社するように迫ってきたときにはどのように対処すれば良いのでしょうか?
①代わりにシフトに入れる人を探すように言われた場合
アルバイトには、代わりの人を探す義務は無いため、その旨を伝えましょう。もし探さないと休んではいけないと言われた場合には、労働基準監督署に相談するようにしましょう。
②いろいろと言われて休みにくい場合
職場の人で不足などが問題となり、シフトを沢山入れられるなどした場合、その職場は人が集まらないようなあまり良くない職場であると割り切って新しいアルバイト先を探すのもいいでしょう。
パワハラ・セクハラへの対処法
ブラックバイト先でパワハラ・セクハラを受けている本人に対して、辞めてもらえるように伝えるのは大変でしょう。
ここでは、パワハラ・セクハラへの対処方を紹介します。
①証拠を揃える
まずは、パワハラやセクハラを受けた証拠を残すようにしましょう。
メールやボイスレコーダー、その他一緒に務めている人の証言、怪我をさせられた場合などには病院の診断書などが証拠となリマス。
②社内の上司などに相談・報告する
上記の証拠を揃えた上で、上司に相談するようにしましょう。アルバイト先で店長などにセクハラをされている場合などには、本部に相談するなどして適切な対処がされることを待ちましょう。
③社外に相談・報告をする
もし、社内で相談しても解決に至らなかった場合には、近くの総合労働相談コーナーなどに相談するようにしましょう。
4、ブラックバイトの適切な辞め方とは?

ブラックバイトを辞めるとなると、引き止められたり脅されたりということも当然起こり得ます。ブラックな環境だけに、いきなりばっくれたりしたら鬼のように電話が掛かってきたり家まで押しかけて来る可能性もあります。
そんな中で適切にブラックバイトを辞めるにはどすれば良いのでしょうか?
退職の相談をする
はっきりと職場の責任者に退職したいということを伝えましょう。
「お忙しいところ失礼します。今、少しお時間を頂けないでしょうか?(実は、退職に関して相談があります)」
と時間を取ってもらって、しっかりと退職したい理由を述べて退職の意思を伝えましょう。
その際に、学校が忙しくなることや家庭に事情があることや、自分の体調が良くないことなどの理由を添えて辞める理由を明確に伝えるようにしましょう。
相手もいきなり辞めたいとだけ言われても困ってしまいます。
この時点で納得してもらえず、脅してくるなどといった場合には以下のように辞める手続きを取りましょう。
辞める14日前までに退職届を出す
退職の意思を伝えても受け取ってもらえないという場合には、退職届を提出するうようにしましょう。退職届を直接渡せば問題ありません。
しかし、退職届を直接は受け取ってくれないというブラックな職場であった場合には、内容証明郵便で退職届を送るようにしましょう。ただ、内容証明郵便で退職届を送るというのは最後の手段とも言えるので、できれば他の方法で退職を伝えるのがベストでしょう。
こういった正式な手続きを踏むことで、アルバイトを辞めた後にトラブルが生じることを防ぐことが出来ます。
また、今回は14日前までに退職届を出すと紹介しましたが、就業規則などで30日前までに申告するなどといったことが決まっていた場合には、その期限に従ったほうが無難でしょう。
5、小括

いかがでしたでしょうか?世の中にあるブラックバイトには様々なモノがあります。
罰金を始めとした賃金の未払いや、辞めたいのに拒否されるなど、といったブラックなバイト先は後を経ちません。
しかし、ブラックな環境で働き続けては精神的・肉体的にあまり良くないことがほとんどです。
もし自分のアルバイト先がブラックであると思ったら、できるだけ早く手をうつようにしましょう。
最悪の場合には、弁護士などの法律の専門家に相談すると良いでしょう。
6、まとめ
ブラックバイトだと思ったら、どんな場合でも証拠を集めることが重要。
サービス残業や時間外労働分の給料が正当に支払われていない場合請求可能。
罰金等で給料が全額支払われないのは違法。
アルバイトでも有給をとる権利はある。
シフトを強制される場合には、労働契約書や就労規則をチェックする。
パワハラ・セクハラは違法なので、会社の上層部などに相談して対処する。
アルバイトを辞める時には、辞める14日前までに報告する必要がある。